学習科学は、人と事象と環境などの社会的な相互作用の中で起こる「学び」を、心理学・認知科学・社会学・教育学などの多様なアプローチを総合して科学的に捉えながら、知識創造につながる学習環境のデザインを目指すことで実践面での発展も目指す学問分野です。

「せかい探究部」プログラムは、「探究学習」をはじめとした、学習科学や教育学の領域の知見・考え方や要素を取り入れながら、デザインおよび実践を試みています。

このページではそれぞれの概要を整理しています。プログラムデザイン時に意図したことに加え、実践の中で気づいた要素なども随時足しています。

プログラム全体のデザインに関連するもの
・探究(探究学習)
・構成主義
・個別最適な学び

学びの内容に関連するもの
・メタ認知
・自己調整学習

教員の役割や関わり方に関連するもの
・足場かけ
・発達の再近接領域
・認知的徒弟制

社会的な位置付けに関連するもの
・高大接続/高大連携

プログラム全体に関連するもの

探究/探究学習

「せかい探究部」では、学習の形態・方法として「探究学習(Inquiry Learning)」を用いています。

ジョン・デューイは、子どもや学習者は、科学者や哲学者のように、仮説を提示し、それを現実や推論と対比して検証することを通じて外界と相互作用することで学ぶと考え、これを、探究(Inquiry)という概念で示しました。
探究学習とは、学習者が協働的に研究活動を行うことで、学問領域の内容だけでなく、認識論や実践の方略を学ぶ学習方法(Hmelo-Silver, Duncan & Chinn, 2007)です。

つまり、内容そのものに関する知識・理解と、学びに関するスキル(問いや考えを生み出す、自律的に学習する、外部と関わりながら学ぶ、など)の両方を伸ばすことを目標とします。

探究学習では、学習者にとって意義のある問いを扱い、エビデンスに基づいた説明を組み立てながら学習者自身が意味を構成し、他者と考えをやりとりしていきます。教師はファシリテーターとして学習過程を促進(→参考:足場かけ)し、必要に応じて内容知識を提供する役割として存在します。

構成主義

学ぶという行為を、外から与えられた知識をそのままインプットすることではなく、学習者が環境と関わりながら主体的に知識を構成していく」と考える理論です。
学び手は、外界と相互作用をしながら、学ぶ対象に呼応して、それまでの知識や考えを調節したり、自分で理解できるように解釈を加えながら、自分の知識に組み込み同化させていくことが学びであると考えます。

探究学習のデザイン全体のベースにある学びに対する考え方となります。

学びの内容に関連するもの

メタ認知

メタ認知とは、自身の認知活動(知覚、記憶、思考、判断 など)を客観的に理解し、それらの活動を評価したり制御したりする働きのことです。

メタ認知は、①メタ認知的知識 と ②メタ認知的活動 に分けることができ、それぞれ
①−1 人間の認知特性(情報を記憶、理解、表現する力)についての知識、
①-2 課題についての知識、
①-3 方略(学習の方法)についての知識、

②-1 メタ認知のモニタリング(認知の気づき・点検)、
②-2 メタ認知のコントロール(認知の計画・修正)、
に分類されます。

せかい探究部での探究において自らの学習を組み立てていく過程(→自己調整学習)で、これらのメタ認知的知識や活動をはたらかせたり伸ばしたりする機会をつくることを試みています。

自己調整学習

学習者が自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの認知活動や行動をコントロールしながら取り組む学び方のことをいいます。学習者自身が、「何を、どこまで、どのように学ぶのか」を、自分の現在地を認識・評価したり、他のモデルを参考にしたりすることによって、自分で調整・決定しながら、自らが学習の主体である認識をもって目標に向けて学習活動に取り組んでいる状態です。
自己調整学習が行える学習者は、メタ認知・動機づけ・行動において、自分自身の学習過程に能動的に関与している状態(Zimmerman, 1986)と表されます。

せかい探究部では、自らのテーマでの研究を軸とする一連の学習を通じ、自己調整的に学びを組み立てられる学習者の力を育み伸ばすことを重視しています。

 

教員の役割や関わり方に関連するもの

足場かけ

問題解決過程を共有し支援してくれる他者の助けを得ることで、学習者がその助けがない時よりも複雑な課題な課題に取り組めるようになることが、足場かけ(Scaffolding)という概念で示されています(Wood, Bruner, & Ross, 1976)。

教師の足場かけによって、学習者にとって複雑で困難な課題や題材が、扱うことが可能・やり遂げられるものに変化(→参考:発達の最近接領域)していき、学習者が探究を継続的に実践していく手助けとなります。

せかい探究部の教員の主な役割として、学習者の思考に沿いながら、時期をとらえたさまざまな支援を行い、学習者の選択や活動・知識構成を促進していくことを目指しています。

発達の最近接領域

ヴィゴツキーは、問題解決場面において学習者が独力で解決可能な水準(=現時点の発達水準)と、他者からの援助や協同により可能となる高度な水準 (=潜在的な発達可能水準)の間の範囲を、発達の最近接領域(zone of proximal development:  ZPD)、という教育・学習の心理学的概念として提唱しました。

教育者が発達の最近接領域を捉えながら、学習者の現時点の発達水準が潜在的な発達可能水準へと広がるような働きかけを行うこと、あるいは、学習者が自身の発達の最近接領域を捉えながら、他者との協同により発達水準を広げていくことで、相互作用の中での教育・学習をより促すことができると考えられます。

認知的徒弟制

せかい探究部の個別ゼミでは、
研究者ではありながらも、そのテーマについては普段専門とはしない教員が、高校生が持ってくるテーマや説明する状態に対し、「自分がそのテーマを研究するならどうするか・その状況ならどうするか」を即興的に考えながら支援を試みる中で、その思考過程も含めて言葉や動作として提示される場面があります。
そこでは、領域的な知識のほかに、研究者の考え方や思考のプロセスが

社会的な位置付けに関連するもの

高大接続・高大連携

高大接続・連携という言葉の明確な使い分けはなされていませんが、高校教育と大学教育
昨今は日本の学校教育での「高大接続」という言葉は、入試改革の文脈で使われることが多くなっています。